来 歴


私の駅


踏み切りを通り過ぎてから
ゆるやかに曲って駅にすべりこむ線路
ホームのはずれには赤い花も咲いている
そして次のトンネルへと走って行くわけだが
その割りあてられた旅程の
どこからを明日とよんでいいものだろうか

小型な時刻表から
厳粛な人生を選びとろうとすると
改札口の棚の付近から
じっとこちらを監視するけはいがある
とにかく気持ちのいい風が
吹いていなければならぬそのあたりがくらいのだ

数字で説明できない時間ののち
まずかすかな訣別のうれいがひいて行く
色あせた地図を北のほうから裏返してみると
名前のない海 決して青くない未来が
おびただしい波がしらとなって
はるか向こうの記憶の線路を走って行く
旅人の胸にだけ住む
野鳥のようにするどい観察眼
やすっぽいひらひらした感傷など
あとかたもなくぬぐいとってしまうハンカチ
とにかく新しい持ち物を手早く身につけて
次の列車を待つことだ

怠惰な毎日はもうごめんだ
鋼鉄の機関車がけわしい足音をたててはいってくると
決して泣いているわけではないのに
何となく酷薄な運命を暗示する汽笛が鳴り
過去と未来の深く落ちこんだつぎめには
私の駅がかろうじて生きかえるのだ

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